2015年08月19日11時30分

にっぽん日和 愛知 名古屋市

東京・大阪の間に位置する名古屋市。1900年以上の歴史を持つ熱田神宮や風変わりな建造物から歴史を学び、商店街と喫茶店のモーニングに現代の姿を感じ取る。


カメラ/渡邊春信 ライター/吉田彩乃 デザイン/北川原由貴 プロダクションマネージャー/池田大作 スペシャルサンクス/名古屋市

「熱田さん」の名前で親しまれる、
市民の心のオアシス




熱田神宮
名古屋市熱田区神宮1-1-1

 113年、日本武尊は東国平定の帰途、尾張国造の御女である宮簀媛命をお妃とした。やがて尊は、三種の神器の一つである草薙神剣を尾張国のお妃に預けたまま、伊勢国で亡くなってしまう。死の直前、尊は「嬢子の 床のべに わが置きし 剣の太刀 その太刀はや」と詠んで剣を案ずる気持ちを歌に遺しており、尊の死後、宮簀媛命は神剣を尾張氏一族の祭場としていた熱田の地に祀った。これが、熱田神宮の始まりである。

 現在、熱田神宮には年間約650万人の参拝者が訪れている。名古屋市民の多くが「熱田さん」で七五三詣をすると言われており、市外の参拝者も含めると毎年約2万人がここで七五三の祈祷を受けている。

 都市部に位置しながら約19万㎡もの広大な土地を有し、クス、ケヤキ、カシ、シイ、ムク、イチョウなどの針葉樹が鬱蒼と生い茂っていることから「熱田の杜」とも呼ばれ、市民の心のオアシスとしての役割も果たしている。なかでもクスには巨木が多く、樹齢千年前後と推定されるものも数本ある。また、境内入り口の一の鳥居から本宮へと続く参道は、両脇に高く伸びた木々が日陰を作るほど密生し、森林浴に最適である。



〝ごった煮〟が繁盛の秘密
「大須商店街」




大須商店街
名古屋市中区大須3-38-9

 なんといっても、エリアが広い。東西に600mも延びるメインストリートが3本。南北400mも続く通りは2本。エリア内の店舗数は、なんと1200軒にものぼる。平日は3~4万人、土・日には7~8万もの人が訪れる。

 繁盛の理由を、大須商店街連盟会長の今井富雄さんは「様々な要素がごった煮になっているから」と語る。大須商店街は、1612年に清洲越を含めた近隣の寺院や神社が名古屋城下に集められ、門前町として栄えたことを起源としている。幕末から昭和初期にかけては遊郭・歓楽街として栄え、1970年代には電気街へと変容した。東京・秋葉原、大阪・日本橋と並ぶ日本三大電気街の一つとして数えられる大須は、近年オタク街としても発展している。現在並ぶ店を眺めてみても多種多様であり、テイクアウトの飲食店から、衣類、玩具、古着、創業明治4年の舞台演劇用化粧品、かんざし和装小物を扱う店やスーパーなどが揃っている。「大須といえば面白おかしい街。昭和の懐かしさも気楽に楽しめるし、バザール的な面白さも魅力です」。シャッターとは無縁の商店街、ここにあり。





建造物をめぐる
名古屋の歴史





ナナちゃん人形

名鉄百貨店ヤング館前の巨大人形。1973年4月28日生、身長610㎝。体重600㎏。公募により、ヤング館の旧称がセブン館であることから「ナナちゃん」と命名された。イベントごとに衣装が変わる。

ちなみにライターの身長は149cm

ナナちゃん人形
名古屋市中村区名駅1-2-1





名古屋市役所 本庁舎

1933年竣工。政令指定都市の中では1927年竣工の京都市役所に次いで2番目に古い。本庁舎は昭和天皇即位の記念事業で建設されたもので、2014年に国の重要文化財に指定された。

名古屋市役所 本庁舎
名古屋市中区三の丸3-1-1





モード学園スパイラルタワーズ

2008年竣工。高さ約170m。螺旋状の外観デザインは「時代の最先端を行くエネルギーをもつ学生が、切磋琢磨し絡み合いながら上昇して、社会へ羽ばたいていく様」を表している。


名古屋市中村区名駅4-27-1





名古屋市科学館

1962年に開館され、老朽化、耐震対策などを理由に2011年に新館を竣工した。球体部分は、世界最大となるドーム内径35mのプラネタリウム。2011年にはギネス世界記録に登録された。

名古屋市中区栄2-17-1





JR名古屋駅桜通口モニュメント 飛翔

1989年竣工。高さ23m。「縄文式土器に現れる“縄”のイメージを使って、市民が大きな輪になって新しい街づくりを進める様子と、情報を世界に発信する名古屋を象徴するようデザインした。

名古屋市中村区名駅1-1-4(名古屋駅前)





名古屋城石垣の刻紋

名古屋城の石垣は、徳川家康から命じられた20名の助役大名たちによって工事が進められた。使われた石の総数は10万個から20万個。諸大名が、自分の運んだ石を他の大名の石と区別するために刻んだ目印が今も残っている。

名古屋市中区本丸1-1





金の鯱

1612年の名古屋城天守竣工時には、215.3㎏の金が使用され、高さは2.74mあったという。1945年の名古屋大空襲で焼失。現在の金鯱は復元されたもので、金の重量は88㎏、大きさ(総高)は2.6m前後。




喫茶大好き、名古屋っ子

 名古屋といえば喫茶店である。休日の朝は一家で喫茶店へ行き、サラリーマンは昼食や打ち合わせで利用するなど、一人一軒は必ずお気に入りの喫茶店を持っている。総務省の統計(※2012~2014年)によると、名古屋市の一人当たりの喫茶代の支出金額は1万3303円。全国平均の5451円を大きく上回り、都道府県県庁所在地のなかでは第1位だ。喫茶店の軒数も非常に多く、2006年時点で、名古屋市内の喫茶店数は4700店と、市内の一般飲食店数全体の約40%を占めている。

 小倉トーストなど小倉あんを使ったメニューが多いことも、名古屋の喫茶店の特徴の一つだ。戦国時代から喫茶文化が続き、尾張徳川藩政期には茶の湯文化が庶民にまで浸透していたことを背景に、名古屋では和菓子の文化が盛んになった。和菓子に欠かせない餡づくりも栄えたことから、餡の消費も増え、名古屋市民とあんこは密な関係になったのだ。

■喫茶マウンテン

名古屋喫茶店文化の究極形!?

 これぞ名古屋喫茶店文化が生み出したハイブリッド。マスターの加納幸助さんが創作した甘口のスパゲッティは、試行錯誤の末にやっと完成した、砂糖入りの自家製麺を使用している。「ごはんの後にケーキを食べる人は多いだろ。俺はさ、ケーキより、こういうのがいいんじゃないかと思ったんだよ」と語る加納さん。名古屋では馴染み深い小倉あんとの相性を考えて、「おしるこスパ」や抹茶味の麺も考案した。「甘口バナナスパ」(900円)など個性的な内容もさることながら、優に100は超えるメニュー数の多さも圧倒である。かの有名な作家・村上春樹は、異彩を放つこの店を「魔都・名古屋の最高峰」と称した。




コーヒーカップの秘密

甘口のメニューが多いことから、深煎りで苦めのコーヒーを淹れているのもマスターのこだわりだ。冷めて味が落ちるのを防ぐためカップは温めており、カップ自体も熱を逃がしにくい厚めの構造にしている。

■喫茶マウンテン
名古屋市昭和区滝川町47-86




コメダ珈琲店

 全国に約630店舗を持つ名古屋発祥のコメダ珈琲店。看板メニューの「シロノワール」は、熱々のデニッシュパンと冷たいソフトクリームの組み合わせが絶妙だ。「ノワール」は「黒い」を意味するフランス語。黒っぽいデニッシュ生地のパンケーキの上に、白いソフトクリームが乗っていることと、「温と冷」「白と黒」という相反するものを一つにする構成から、「シロノワール」の名になった。


■茶房もちつき庵

餅を愛する気持ちが生んだ、ぜんざいモーニング

 店主の小野眞一さんは元証券マンだ。「美味しい餅を食べたい、と思ったのが始まりでした」。9年前、37歳で脱サラしてこの店を開いた理由をこう語る。「市販の機械でついた餅は、コシや弾力が足りない。ふと、自分の理想とする餅の食感と、親子三世代で杵と臼で餅をついた子どもの頃の記憶が結びついたんです」岸和田の親戚・知人の家で眠っていた石臼をかき集め、日夜、美味しい餅を作るための研究に明け暮れた。小野さんがつく餅は、表面はつるつるで、ぎゅっと引き締まった、弾力のある餅だ。ぜんざいや出汁の中に入れても溶け出さず、形をしっかり残している。「本当はつきたての大根おろしもちやきなこもちだけで勝負したい。でも、郷に入れば郷に従え。小倉トーストのある名古屋なら、ぜんざいが定着するだろうと思いました」。こうして、ぜんざいとトーストをセットする、茶房もちつき庵流のモーニングセットが生まれたのである。


■茶房もちつき庵
名古屋市天白区大坪2-804 ラフォーレ八事1F



■喫茶リヨン

昼でも夜でも、一日中モーニング

 名古屋の喫茶店といえば、モーニング。多くの喫茶店で、開店から11時までの間はドリンクの料金だけでトーストなどをサービスしている。リヨンは、このサービスが一日中受けられることで有名だ。「創業者である父が、11時をたった5分過ぎただけなのにモーニングサービスを受けられないお客さんがかわいそうだ、と考えたのです」と、店主の川合正樹さん。「何時に入ってもモーニングがついてくることをわかりやすくするため、『一日中モーニング』の看板も目立つ色にした」のだそう。


■喫茶リヨン
名古屋市中村区名駅南1-24-30 名古屋三井ビルディング本館別棟



■両口屋是清 東山店 カフェ喜蝸庵

江戸時代から続く
老舗が持つ餡へのこだわり


 1634年、創業者の猿屋三郎右衛門が武家屋敷や商家を相手に饅頭を売り始めたのが両口屋是清の始まりだ。第二次世界大戦中も苦心しながら砂糖菓子を作り続けた。昨今、糖分カットの風潮もあるが、両口屋是清の職人たちは「甘みは旨み。砂糖の分量は培った職人技が必要」と老舗のこだわりを貫く。羊羹などの棹菓子を得意とするが、東山店をはじめ、限られた店舗では半月ごとに品を変えながら5種類の生菓子も販売している。

両口屋是清東山店の取材後の一コマ。

ブームとなっているかき氷を両口屋是清でも始めたとのことで、甘いもの好きの編集長と編集チーム一同で休憩がてら実食。さすが和菓子屋のかき氷は氷のきめが細やかで、シロップも上品な味わい。


■両口屋是清 東山店 カフェ喜蝸庵
名古屋市千種区東山通4-4-1



■坂角総本舖 葵店

海老7匹分の旨みが詰まった
銘菓・ゆかりせんべい


 愛知の銘菓・名古屋土産を語るときにはずせないのが坂角総本舖の「ゆかり」だ。明治22年に坂角次郎が、伊勢湾で豊富に獲れた小さな海老を有効活用しようとして煎餅を作り始めたのが「ゆかり」の発祥だ。ざくっとした独特の食感の秘密は、海老の分量。一般的なえびせんべいは海老の含有率は多くても3割。「ゆかり」はなんと材料の7割を占めている。


■坂角総本舖 葵店
名古屋市東区葵3-18-15 坂角葵ビル1F


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