2015年08月26日11時00分
ビジョナリーな人たち 安部彰二 安部製菓株式会社 代表取締役
安部彰二 安部製菓株式会社 代表取締役
安部彰二(あべ しょうじ)
1957年11月名古屋市生まれ。1982年安部製菓に入社。1993年同社社長に就任。
2000年には販売会社である安部株式会社を設立して、製造部門と販売部門を分離。
趣味は合唱。
味噌キャラメルの開発から広がったコラボ商品の数々
ラムネ菓子とキャラメルの製造をメインにしながら、
創業以来99年間、無借金・黒字経営を続けている安部製菓。
その秘訣は、斬新かつ最良の商品を創ろうとする経営方針にあった。
子どもの頃、誰もが一度はラムネ菓子を食べたことがあるだろう。独特のひんやりとした味わいはブドウ糖に由来しているが、1967年に、日本で初めてブドウ糖を主原料にしてラムネ菓子を作ったのが安部製菓だ。
「先代の父が、ブドウ糖を食べるとひんやりとするから、これを使って何かできないかと考えたのがきっかけでした。原料屋さんに相談して『無理だ』と言われながら、何年もかけて開発したのです」と、代表取締役の安部彰二さん。安部製菓は1916年に彼の祖父にあたる篤二さんが創業し、来年で創業100周年を迎える。ラムネ菓子、キャラメルなどの製造を主としており、主力商品は動物の絵のパッケージが目を引く「あべっ子ラムネ」だ。定番のラムネ菓子に加えて、味噌キャラメルなど、一風変わった商品を販売しているのもこの企業の特徴だ。
「商品企画からデザイン、価格設定まで、私がすべてやっています。先代がブドウ糖のラムネ菓子の開発をしたのを見ていて、他社と同じものを作っていてはいけないと強く感じたのです。人に任せていては自分の思うような商品や、経営スタイルにはなりませんから、細かい話ですが給与計算も私がやっています」
創業以来、無借金で黒字経営をしているのも、安部製菓の誇りである。
「会社の規模は広げずに、社員は35名前後でやっています。最大より最良。会社を大きくすることは簡単にできると思いますが、最良のものをつくるということに努力しています。最良の商品でなければ残っていけないし、そういう商品を創らないと、社会から求められる会社になれないからです」
安部さんは、1993年に35歳で社長に就任した。本来なら6歳年上の兄が家業を継ぐはずだったという。
「兄は東京の大学を卒業したらケーキ屋さんに入社して、修行をしたら家に戻ってくるという筋書きがありました。しかし、東京に出て音楽活動にのめり込み、家業は継ぎたくないと言い出したんです。私も兄の影響を受けて東京に出て、一緒にライブに出たり音楽をしていたのですが、兄が実家に戻らないと宣言したために、仕方なく私が継いだというわけです」
大学卒業後、地元の菓子問屋で約3年修行を積み、25歳で安部製菓に入社。父・正男さんは自分が35歳の時に社長に就任したことに倣い、彰二さんが35歳になったときに彼に後を譲った。
社長就任以来22年のなかで、安部さんの最大の功績は味噌キャラメルの開発だ。1645年創業の味噌屋であるカクキューの赤味噌を使ったこの商品のヒットが、後に様々な方面へと業務拡大していくきっかけとなった。
「愛知県産のものを原料としていたり、名古屋名物になったりするような商品を創りたいと考えていたところに、社内の開発担当者が味噌を買ってきたんです。最初は、ものすごくまずかった。でも、何回か作り直すうちにだんだん面白い味になってきて、愛知では岡崎の八丁味噌が有名だから、老舗に頼んで味噌をわけてもらおうという段階まで話が進んだんです。そこでカクキューさんに内容を説明すると、先方もお菓子は初めてだと乗り気になってくれたんですね」
味噌味というだけでは単調な味わいになってしまうところに、白ごまを加えて工夫した。カクキューのロゴを借りてパッケージをデザインして商品が出来上がると、早速スーパーとカクキューの売店での販売を開始した。しかし、ここで問題が起こった。価格競争の激しいスーパーでは、カクキューより50円前後値下げをして販売していたため、客からクレームがついたのである。そこで、販路をカクキューの売店と名古屋城、空港などに絞った。細々とではあるが販売を続け、味わいを濃くするなどの改良を重ねながら現在に至る。
味噌キャラメルは、味噌の味もしっかりとしていながら、ほんのりと甘く、味噌餡を思わせる上品な味わいになった。「いまでは『懐かしい味がする』と気に入ってくださるお客さんが増えてきました」
味噌キャラメルの定着により、「絶えず面白いことに挑戦している」という会社のイメージが広まった。他社から依頼を受けて製品を開発する機会が増え、全国各地で販売されている長崎カステラ味や八ツ橋味など地元名産品の味のキャラメルのほとんどは、安部製菓が製造をしている。
また、名古屋発祥の全国チェーン店「世界の山ちゃん」とコラボレーションした手羽先味キャラメルの発売も決まった。
「他社から依頼を受けて製造する商品には当社の名前は出ていませんが、周りの会社の方から信頼される位置付けを得られたのは嬉しいこと。実は私は社長に就任した年からずっと『ディズニーランドに商品を入れる』という目標を20年間掲げ続けていたんです。そして、一昨年やっとその夢を叶えることができました。これからも、業界を問わずに様々なところから頼りにされ、かつ、それに真摯に向き合える会社でありたいですね」
現在の目標は、200年継続する会社創りだと、安部さんは語っている。
木村の視点
老舗企業に尋ねると、「うちは老舗と言われるけれど、変革し続けてきたからこそ現在があるのですよ」と答えるところが多いという。言い方を変えると、「変」や「新」こそが老舗企業の日々の姿で、その蓄積の上に「信」や「継」があるということである。来年100周年を迎える安部製菓さんも、まさにそのカテゴリーに入る元気な老舗企業である。初代・二代目から引き継いだ会社を、現社長が持ち前の起想力で今も進化をさせ続けている。「最大ではなく最良」いい言葉ではないか。この社長の理念・哲学・得意技・テーマ設定がある限り、きっと次の100年後にも続いているんだろうな。
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- 5L編集部
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