2015年12月09日10時00分
子どもたちの未来 室井佑月
イラスト:北川原由貴
OECD(経済協力開発機構)が今年の10月に発表した『よりよい暮らしの指標2015』。それにより、この国の子どもの貧困がかなり深刻な状態であるとわかった。
日本の子どもの貧困率は15・7%。6人に1人の子どもが貧困だ。OECDに加盟している36カ国の平均の13・7%を軽く上まわっている。
最近、マスコミの報道で、大手企業の『過去最高益』が大々的に取り上げられている。東証一部上場の企業、1270社の9月中間決算の最終利益は過去最高の見込み。2016年の3月決算では純利益総額が23兆円を超え、2年連続過去最高記録を更新できるとまでいっている。
だとすれば、大手企業だけ儲かっているのか。安倍首相のいうように、大企業が儲かれば、トリクルダウンというやつで、その恩恵は待っていれば我々庶民にもまわってくるのだろうか。
しかし、こういう指摘もある。
11月16日付の夕刊紙『日刊ゲンダイ』に、『大企業 空前利益の謎解きと疑問』という記事が載っていた。その中で経済評論家の斎藤満さんはこう述べていた。
「日本市場は縮小し、―中略―このご時世で最高益なんて本来、ありえない話なんです。それがどこもかしこも最高益を出せるのは、売上高が伸びているのではなく、金融コストや税金が軽減され、人件費をカットしているからです。アベノミクスの異次元緩和で資金調達コストは減ったし、法人税は安くなった。企業は非正規社員を増やして、人件費も削った」
つまり、日本の景気は良くなっていない、と斎藤さんはいっている。企業の利益が一時的に上がったのは、安倍政権が企業に有利な政策を取ったから。一時的なものだと企業はわかっているから、内部留保で金を貯め込み、設備投資にも、賃上げにもまわさない。
日本円がこんなに安くなってしまったことも考えれば、日本の企業が貯め込んでいる金だって、そんなに莫大なものじゃない。
それは我々の貯金にもいえる。円が安くなっているのだから、世界的に見れば我々の貯金だって目減りしている。
今年に入ってから、若年層で世帯年収300万円未満がほぼ倍増した。若い人たちだけじゃなく、貯金なしの低賃金世帯は増えている。
この国はじわじわと貧しい国になっているのだ。きゅうにじゃないから、みんなはっきりとは気づかない。
それでも気づいてしまった人は多くいる。
冒頭であげた、6人に1人といわれる貧困に苦しむ子どもたち。子どもたちは親元にいるわけで親も貧困ということになる。老人の生活保護率が増えたともいわれている。さきほど書いたように、若年層の世帯年収300万円未満だって倍増した。
景気が良いときあたしたちがしてきたことを、他国の人たちにされる側になった(不動産を買われたり)。人々に余裕がなくなってきて、拝金的な、今だけ自分だけという風潮がはびこっている。
それもこれも、この国が貧乏になってきているからじゃないのか。
テレビでは盛り上がるハロウィンの様子を流し、それが終わるとクリスマスムードを煽り、その次は正月で、その次はバレンタイン。長期的には2020年のオリンピックか。
イベントがない場合は、隣国叩きに専念する。ニュースにするような大きな話題じゃなくても、隣国の失敗や遅れているところを大々的に取り上げる。
この国でニュースがないわけじゃないのに。だが、そういうことじゃない。隣国叩きをするのは、この国がどんなにすばらしいかをアピールするため。
逆にいえば、この国の現実を隠したいから、余裕がなくなってきているからじゃないか?
この国の潜在成長率は落ちてきて、少子高齢化はこの先もっと激しくなり、借金は増えつづけている。とどめに、東日本大震災があり、どうやって修復していいのかわからない原発事故まで起きてしまった。
資源がないこの国では、優秀な人材や技術力が大切だが、それらを生み出す大学の、世界ランキングは低下しつづけている。それらを報道するマスコミの世界報道ランキングも、二等国、三等国並みになった。
うちの息子が大人になる頃、この国はどうなっているんだろう。それはかなり深刻な、親であるあたしの不安だ。が、あたしは息子に「勉強しろ」とそれしかいえない。それしか思いつかない。もどかしいったらない。
イラスト:北川原由貴
室井 佑月(むろい ゆづき)
1970年、青森県生まれ。ミス栃木、レースクイーン、雑誌モデル、銀座の高級クラブでのホステスなど様々な職を経て、97年、「小説新潮」主催「読者による『性の小説』」コンテストに入選。以降、「小説現代」「小説すばる」などに次々と作品を発表し本格的な文筆活動に入る。『熱帯植物園』(新潮社)、『血い花(あかいはな)』(集英社)、『piss』(講談社)、『ドラゴンフライ』(集英社)、『ぷちすと』(中央公論新社)、『クルマ』(中公文庫)、『ぷちすとハイパー!』(中央公論新社)、『ママの神様』(講談社)などの長編・短編・掌編小説を多数刊行。一躍、人気作家への階段を駆け上がっていく。『ラブ ゴーゴー』(文春ネスコ)、『作家の花道』(集英社文庫)、『ああ〜ん・あんあん』(マガジンハウス)、『子作り爆裂伝』(飛鳥新社)などの痛快エッセイも好評を博す。現在、『ひるおび!』(TBS)、『中居正広の金曜日のスマたちへ』(TBS)などのテレビ番組にレギュラー出演中。
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